社会の養殖から逃れた愛おしき天然
仕事をすると、人はすべからく社会の常識というやつに養殖されていくのだと思う。
だが、中には社会の常識という養殖を、われ関せずと大海原を優雅に泳ぎまくる天然の人がいるのだ。
これは皆で保護しなければならないほど貴重な存在。愛おしき天然。
最近、職場に入ってきた40歳男性の人もこの愛おしき天然タイプだ。
すごく個性的な人でユーモア溢れる。
つい先日、職場での話しですねこれ。
あっ、ちなみに僕は今
紳士な男性達が目を血眼にして見るDVDを販売している職場で勤務しているのです! ドン!!
はい。話しを戻します。
先日。
職場の先輩が「『カウンター内清掃』を新人君に教えてあげて」
僕はそう言われたのだ。
元来、人に物を教える事が苦手ですごくいい加減な僕に仰せ付かされた命令。
喜んでお受けいたしましょう。必ずや役目を全うします。
「よろしくお願いします」
新人さんは僕に丁寧に頭を下げて教えを請う。
僕は『カウンター内清掃』と書かれたマニュアルを新人さんに渡して
「この通りにやってもらえばいいですよ」
そう言った。
ミッションコンプリートである。
少々いい加減な気もしたが、『カウンター内清掃』とはその名の通り、カウンター内をハンディーモップで掃除するという単純なものなのである。
カウンター内のどこを掃除するという事がマニュアルに書いてあるのでそれを読めば誰だってできるはずだ。そう思ったのだ。
「分かりました」
新人さんはまた丁寧に頭をさげハンディーモップを片手にカウンターを掃除しはじめた。
その時、お客さんが急にレジに並びだしたので僕は新人さんから目を離した。
客足が途絶えてカウンター内を見渡すと……
なんと新人さんがいなかった!!
あれどこ行ったんだろう!?
僕はもう一度、辺りをよく見渡す……いた!!
カウンターの外!
売り場まで遠征してハンディーモップで清掃していたのだ。
僕は急いでカウンターから出て新人さんを引きとめた。
「『カウンター内清掃』ですから、カウンター内だけでいいんですよ」
「あっ、そうなんですか? すいませんでした」
新人さんはまたもや丁寧に頭を下げた。
こいつ可愛いやつだな。このおっちょこちょいめ!
これが、新人の16歳の女の子ならそう言って額を小突く事も可能だ。
だが40歳のおっさんだ。無理だ。
カウンターに戻ると職場の先輩が
「ちゃんと教えないから悪いんじゃないのか?」
皮肉交じりにそう言ってきたのだ。
確かにそうだ。
僕が悪い。
まず
カウンタ内とはカウンターの内側です。
カウンター外とはカウンターの外側を言います。
つまりカウンター内清掃とはカウンターの内側の清掃であり、
カウンターの外側までは清掃しなくていいんですよ
と丁寧に説明しなければならなかったのだ。次からは気を付けよう……
などと思うかー!!
予想外すぎて対処不可能だ!
おそらくこの新人さん、今後もいろいろと武勇伝を残してくれる予感がする。
大型新人現る。期待のホープだ。
期待をしているぞ。ネタ提供に。